Columnコラム

2026年2月1日、MUFGスタジアムで行われた日清食品 presents 第35回ラクロス全日本選手権大会 A1。学生王者・関西学院大学(以下、関学)は社会人王者・MISTRALに挑み、6-2で敗れた。スコアだけを見れば力の差があるようにも映るが、試合内容は点差以上に見ごたえのあるものだった。1Qは0-0、前半も0-2。関学は重圧のかかる局面でも崩れず、学生王者としての意地を最後まで示した。
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この一戦にたどり着くまでの関学の歩みを振り返れば、彼女たちの激動の一年が伺える。地区内のリーグ戦では圧倒的な強さを見せつけて関西制覇。その後の全日本大学選手権では、1回戦の広島大学を23-3、準決勝・立教大学を8-5、決勝・日本体育大学を延長で10-9で下し、6大会ぶり4回目の学生日本一に立った。特に決勝は前半を0-6で折り返しながら後半だけで10得点を挙げて大逆転勝利。本試合は、2025年シーズンの中でも屈指の熱狂を生んだ一戦だった。まだ見ることができていない人は、今からでもぜひアーカイブ配信を見てほしい。
(全日本大学選手権大会決勝のスコアレポートはこちら)
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そうして迎えたA1決勝はこれまでの勢いの延長線上にあった。
試合後に話を聞いたのは、関学を率いた主将・#71藤野真帆選手と、3年生ながら攻守両面で大きな存在感を放ち、次年度の主将を託される#0大井里桜選手。A1決勝後に語られた二人の言葉を追うと、このチームが単に「ラクロスが上手いチーム」ではなく、組織として厚みを増しながら頂点へ近づいていった集団であることがよくわかる。
#71藤野主将が見つめる、A1決勝での現在地
1on1でMISTRALの選手と対決する#71藤野主将
A1決勝を終えた藤野主将はまず、社会人王者との勝負をまっすぐに振り返った。
「今までやってきたことを全部ぶつけきったんですけど、それでも届かない何かが社会人の強さっていうところにあって、本当に悔しい気持ちでいっぱいです。ただ、通用する部分もあったので、やってきたことに間違いはなかったなっていうふうにも思っています。」
出し切った。だが、それでも届かなかった。この感覚は学生王者としてA1に臨んだからこそ見えたものだろう。実際、今大会MVPに輝いたMISTRAL・井上選手も関学の力を高く評価しており、「(関学のDFについて)個々で対峙したときの強さはとても脅威でした。」と振り返っている。
(MISTRALの試合直後インタビューはこちら)
学生王者として積み上げてきたものは、この舞台でも確かに通じていたのだろう。だからこそ藤野主将の言葉には重みがある。「やってきたことに間違いはない。」――それは敗戦の直後に自分たちを慰めるための言葉ではなく、この一年の手応えを知る主将の実感だった。
「全員が戦力」――主将として向き合い続けたこと
フィールドに向けて声を枯らす応援団
藤野選手が主将として向き合い続けたことは、試合の中だけにあったわけではない。大きな組織をどう束ね、同じ方向へ導いていくか。その日々の積み重ねだった。
「私たちのチームは人数が92名と少し多めで、かつ実際にフィールドに立てるメンバーは限られている中で、いかにボトムアップをしていけるかという部分については特に向き合ってきました。」
100名にも迫る人数の多さは、選手層の厚みを表していると同時に、チームづくりの難しさも伴っている。どのような組織であっても、それぞれが持つ考え方や熱量のベクトルが少しずつ異なることは当然である。関西ラクロス界の中でも長い歴史を持ち、人数も多い関学のような組織であればなおさらだ。立場や役割の違う選手たちを、それでもなお「日本一」という一つの目標に向かってどう束ねていくか。そこに、藤野選手が主将として向き合い続けた難しさがあったのだろう。そこで藤野主将たち4年生が大事にしていたことが、「全員が戦力」という考え方だった。
「チームを組織するうえで、『全員が戦力』っていうのは私たちの中でずっと言い続けていました。あとはチームメンバー一人ひとりに対して本気で向き合うことだったりとか、私一人だけではなくて4年生全員が『全員が戦力』っていうのを、行動でも示していくことは大切にしていました。」
「全員が戦力」という言葉は、2025年の彼女たちのInstagramでの発信や試合後のあいさつの中でもたびたび耳にしてきたフレーズだった。だからこそ、それはその場限りのスローガンではなく、2025年の関学を表している価値観そのものだったのだろう。
その価値観を言葉だけでなく、最も強く行動で示していたのが藤野主将だった。自らが率先して体現することで、関学という大きな組織を束ねてきた。そう考えると、このチームのまとまりにも自然と納得がいく。もちろん、こうしたチームづくりは一朝一夕でできるものではない。多くの部員がいる中で、それぞれの思いや立場を受け止めながらチーム全体の歩幅をそろえていく。藤野主将は、そうした外から見えにくい部分にも丁寧に向き合い続けていたのだろう。
苦しい時間を支えた、スタンドの力
2025年の関学を語るとき、プレーと同じくらい欠かせないのがスタンドの存在だ。藤野主将は、それをためらいなく「日本一」と表現した。
「この一年を通して、どの試合を見ても関学の応援が日本一だなと私は思っています。」
そう言い切ったあと、続けて語ったのは苦しい試合展開の中でのスタンドの存在の大きさだった。
「辛い展開とかしんどい展開があっても、パッとスタンドを見たらいつでも関学側が盛り上がっているというのが、私たちの本当に支えになってたなっていうふうに思います。応援してくれている部員たちもそうですが、今日も関西から駆けつけてくださった保護者や応援団の皆さんの存在が本当に私たちの支えでした。これは当たり前のことではないですし、本当にありがたいことだなって思っています。」
実際、A1の舞台はもちろん、今シーズンの試合を振り返っても、スタンドを含めた関学の一体感には目を引くものがあった。特に全日本大学選手権決勝を思い出すと、大量ビハインドを背負う展開からの逆転劇は戦術や試合中の修正力だけでは語りきれないものがある。フィールドの中だけでなく、ベンチ、応援席、そのすべてが確かに同じ熱量でつながっていた。
「みんながいたから頑張れた」――同期へ向けた、藤野主将の言葉
この試合をもって4年生は引退する。藤野主将が同期について語った言葉も印象深い。
「私たちの学年は本当に怒られてきた学年で、部内外で『もっと頑張ろう』と鼓舞していただいてやっと火がついたみたいな感じの代だったんですけど、内には本当に熱い思いを持っていて、それを表に出すのが下手くそな人が多かったんだなと思います。でも、だからこそ後輩たちが自分達についてきてくれたり、同期が気持ちを伝え続けているところを見て、本当にみんなの同期で良かったと思っています。」
決して最初から完成された代ではなかった。不器用だった。でも、熱量がなかったわけではない。むしろ、内側に抱えていた思いは強かったのだろう。そして最後に、藤野主将は同期の存在をシンプルな言葉で結んだ。
「みんながいたから、私も頑張れました。」
主将として一年間立ち続けた選手が最後にこう言えること。それ自体が彼女たちの関係性の深さを物語っている。
次期主将、#0大井選手に託したもの
試合後、スタンドに向かって挨拶する#71藤野主将
来年度以降の関学について、藤野選手は次期主将・#0大井選手への強い信頼を口にした。
「来年度の主将は大井なんですけど、大井はラクロスに対する姿勢でもずっと見せてくれて、プレーでも私と一緒に同じ熱量ぐらいで引っ張ってくれていて、本当に頼もしい後輩だなって思います。なので全く心配はしていないです。」
日々の姿勢とプレーの両面でチームをけん引してきたことが、次期主将が大井選手に託される理由なのだろう。加えて藤野選手は、大井選手だけでなく後輩たち全員に対する厚い信頼も語っている。
「大井以外のみんなも本当に強くて、私の大好きな後輩たちばかりです。来年度、再来年度もまだまだ走り続けてくれるかなっていうふうに思います。」
彼女たちが1年間築いてきた勢いは、この試合で途切れるものではない。藤野選手が主将としてつないできた思いは、大井選手をはじめとする後輩たちへと確かに受け継がれていく。2025年度の関学が残したものは結果だけではなく、次の代へと受け継がれていく“覚悟”であり、それは彼女たちが目指す「真の日本一」へと繋がっていく。
「もっとできた」――#0大井選手がA1決勝で見つめていた課題
ドローを行う#0大井選手
A1女子決勝では、関学から#0大井選手が優秀選手(VP)に選出された。攻守両面で目立つ活躍を見せたにもかかわらず、本人の評価は厳しい。
「自分的にはもっとできるって思うシーンが多かった試合になってしまったなと思っています。ディフェンスは結構練習してきたことがある程度出せた場面もあったんですけど、ドローとシュートについてはもっとできた部分があるなと思います。」
OF・DFの両面で中心を担い、誰よりも長い時間を走ってきた大井選手。それでも試合直後には反省点を口にしていたところに、この一戦へ懸けてきた思いの強さと責任感が表れていた。
「シュートは決めきれる場面もありましたし、もっと多くのシュートシーンを作ることができたなっていうのと、ドローは試合途中で相手に合わせてやり方を修正できたんじゃないかなって思います。」
攻守の中心として目立った一方で、本人の視線は試合の結果とその内容に向いていた。試合直後に具体的な改善点を挙げる姿からは、自分のプレーに対する高い基準がうかがえる。
応援が“後半をもう一度走る理由”になった
得点後、駆け寄るOF陣(左から#80井出 歩未選手、#98堀之内 冴選手、#0大井選手、#17吉川 ニコ選手、#44福山 暖菜選手)
藤野主将と同じく、大井選手も関学の応援の力を強く語っている。
「いつも、どんなにしんどい状況でも応援の方々の声が聞こえています。」
苦しい状況でこそ、声は届く。そのうえで、大井選手は特に印象に残っている場面をこう話した。
「ドローを取れた時に応援団の人たちがすごく盛り上がってくれるのが、本当に自分にとっては一番のエネルギーになっていました。それもあって後半も頑張ることができたので、本当にいつも感謝しています。」
プレーの一瞬一瞬にスタンドが反応し、その熱が選手を動かし、試合の流れをも動かす。その循環が彼女たちの粘り強さを支えていた。本試合でも彼女たちが最後まで走り続けることができたのは、技術や気力だけでなく、やはりスタンドから絶えず注がれていた声援の力も大きかった。
「4回生を勝たせたかった」――#0大井選手が背負っていた思い
この試合で引退となる4年生について語る大井選手の言葉には、強い責任感があった。
「今シーズン最後の試合で4回生を勝たせたいっていう思いがあったんですけど、それを叶えることができなくて本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。」
この一言には、関学の主力選手としての責任感が詰まっていた。勝たせたかった人たちがいて、その願いを果たせなかったことへの悔しさがある。そのうえで、大井選手は来年への決意を続けた。
「それでも、4回生から教えていただいたことをしっかり来年にも活かして、絶対に今年のリベンジを来年できるように頑張るので見ていてほしいなと思います。」
受け取ったものを来年につなげ、今年果たせなかったことを自分たちで成し遂げる。その言葉には、大井選手の「真の日本一」に対する強い意志が宿っていた。
”チームを引き上げる人”へ――次期主将としての覚悟
試合後の集合写真
最後に来シーズンについて、大井選手は自分の役割の変化をはっきりと語った。
「今年は自分メインで個人技術をどう上げるかというところに向き合ってきました。来年は主将としてチーム全体をしっかりと底上げできるように、同期のみんなの力も借りながらやっていきたいなと思います。」
「個人」から「チーム全体」へ。
今年は自分自身の成長に目を向けてきた一方で、来年はチーム全体をどう引き上げていくかへと自身の役割を捉えている。自分がプレーで示すだけでなく、周囲の力を引き出しながら組織全体を前に進めていこうとする言葉からは、次期主将としての覚悟が垣間見える。
総括
“真の日本一”には、あと一歩届かなかった。
それでも、2025年シーズンの彼女たちの歩みを見てきた人なら、この一年がそれだけで終わるものではないと分かるはずだ。
関西を制し、全日本大学選手権では歴史に残るような逆転劇も演じながら、学生日本一にたどり着いた。そして最後はA1の舞台で社会人王者に真っ向から挑んだ。フィールドに立つ選手、ベンチで戦う選手、スタンドから声を届ける仲間たちまで含め、チーム全体が一つの方向を向き続けたからこそ、関学はあの場所までたどり着いたのだろう。
藤野主将が繰り返し言い続けた「全員が戦力」という言葉。彼女たちを見ると、日々の姿勢として、行動として、そしてチームの空気そのものとして関学の中に息づいていたように思う。だからこそ、あの一体感には人を惹きつけるものがあった。
そして、その思いは大井選手をはじめとする後輩たちへと受け継がれていく。4年生が残したものは勝利やタイトルだけではない。仲間を信じること、支え合うこと、そして全員で同じ景色を目指すこと。彼女たちの言葉を借りるなら、それはまさに「KGファミリー」と呼ぶに相応しいものだった。 人が人を支え、受け継がれてきた思いを紡ぎながら一つのチームが形になっていく。その強さと輝きまで含めて多くの人に感動を届けた関西学院大学女子ラクロス部。次シーズンはすでに始まっている。これからの動向に注目したい。
Photo by 日本ラクロス協会広報部 海藤秀満・小保方智行
Text by 日本ラクロス協会広報部 小田悠人






