Columnコラム

【「わたし」が審判員を続ける個人的な理由】第4回 できないことが多いから成長するし、それが楽しい~以西奈央さんの場合~

第4回 できないことが多いから成長するし、それが楽しい~以西奈央さんの場合~

ラクロスの試合を支える存在――それが審判員です。学生時代に笛を吹き始めても、社会人になると仕事や生活の変化により、多くの人が審判活動を続けることを難しく感じます。しかし一方で、社会人になってからもフィールドに立ち続ける審判員がいます。この企画ではそんな審判員たちにインタビューし、「なぜ社会人になっても審判を続けるのか」、そして「審判の楽しみ方」を掘り下げていこうと思います(全4回)。

以西奈央(いさい なお)さんは、徳島大学大学院2年生(2026年4月現在)。大学を卒業したあとも審判員を続けているのは「大学院生で中四国地区に残っているから」。審判員の資格を取ったのは「(当時の)キャプテンに言われたから」。消極的に見える理由のあとに続くのは、「成長」に対する以西さんの熱い思いでした。

あかつきカップで笛を吹いたこと

2026年3月開催のあかつきカップにて。以西奈央さんは前列一番右(撮影:大会広報部・薬師寺美優)

「正直、ただただ大学院に進学して中四国地区には残るから審判しようくらいの気持ちだったんです」。

社会人になっても審判員を続けてほしいという願いから生まれたこのコーナー。

「なぜ続けようと思ったのか」は必ず聞く質問です。

2024年度に審判功労賞と、ゼブラ賞(中四国地区)を受賞した以西さんですから、続けるには何か積極的な思いがあるはず、と続く言葉を待ちます。

「自分の中で大きなきっかけは、去年(2025年3月)のあかつきカップに審判員として参加したことかなと思います。他地区で吹いている同年代の子とか、年下の子と一緒に吹いたことで、審判に対する姿勢であったり、技術的なことであったり、たくさんの刺激を受けたんです」。

「あかつきカップ」とは2023年3月に全国大会化された「ラクロス全日本学生新人選手権大会」のこと。

前身「あかつきカップ」は、2016年に日本学生ラクロス連盟中四国地区(以下、学連中四国)により「全国の新人戦優勝、それに準じたチームで競い合いながら、交流ができる場を作ろう」と立ち上げられました。

全国大会化されたあとも「あかつきカップ」という名称は引き継がれ、中四国地区事務局・学連中四国が中心となり運営しています。

「もっと自分の技術向上を図りたいという気持ちで審判員を続けたいなって思えるようになったのは、あかつきカップに参加したことが大きかったと思っています。だから、今年(2026年3月)のあかつきカップにも参加しました」。

あかつきカップは、全国大会化されてから第4回の今日まで、岡山県美作市総合運動公園ラグビーサッカー場で開催され、以西さんが所属していた徳島大学女子ラクロス部も後輩たちが合同チームを組んで4年連続あかつきカップに出場しています。

「審判員が全国…北海道から九州まで一人ずつ集まるという試みは第3回大会(2025年3月)からだったと思います。それまでは、審判員としてはほとんどが中四国地区内からの派遣で、他の地区からは少人数しか参加していないという感じだったんです。

あかつきカップの女子競技に限って言うと、中四国地区審判部次長をされている山田徳子さんがいろんな地区から呼んだほうが審判同士の刺激になると、全国の審判部に声を掛けてくださったおかげで、全国から審判が参加したと聞いています」。

中四国地区の審判部次長の山田徳子さん(1級審判員)は、全日本大学選手権大会や全日本クラブ選手権大会、A1(エーワン。ABSOLUTE ONEの略。全日本選手権大会のこと)、更には国際大会でも笛を吹く審判員です。

「ラクロスのルールも、審判員としてやらなきゃいけない仕事もどの地区であったとしても一緒なんですけど、地区ごとの特色があることを踏まえた上で吹くことになるので、試合前のミーティングでより細かいことまで確認する必要がありました。そういった試合前にコミュニケーションを密に取るのは、初めて吹く者同士だからこそ生まれるコミュニケーションだということをすごく感じました」。

社会人になってからも審判員を続ける

中四国学生リーグ戦で審判をする以西奈央さん

中四国地区の審判員だったことで、あかつきカップに関わりやすい環境にあった以西さんですが、大学院卒業後も審判員を続けるのでしょうか。

「就職先が決まったとはいえ来年4月なので、どこの地域に配属かはまだ決まってないんですけど、どこの地区にいたとしても、ラクロスの審判ができる環境があれば続けたいとは思っています」。

最初は「中四国地区にいるから」という理由で審判を続けた以西さんでしたが、徳島から離れたとしても審判を続けようと思うに至ったのはなぜなのでしょうか。

「やっぱり中四国地区の方と会えるっていうのはすごく大きいです。審判を始めるのも、自分がなりたかったからというよりは、スタッフだったので、当時のキャプテンに審判になってほしいみたいな感じで言われたからなんですけど、そのときは、必要とされているっていう感覚が嬉しくてやってみようと思いました。

当時、審判の筆記試験を受けるためにルールブックを読んで勉強はしたものの、それ以上の勉強をせずに飛び込んだ世界でした。

筆記試験に合格したあと、わたしは3級へ昇級する試験に2度落ちてしまったんです。

3級昇格に向けて(実地で)教えてもらう中でお世話になった人たちがたくさんいたから、その方たちと一緒に吹きたくて3級審判になりたいと思いました。3級を取る前も、取ってからも、それはモチベーションとして大きかったです」。

お世話になった人たちと一緒に吹きたい。

そう思えるほどの中四国地区の審判コミュニティには魅力があるようです。

「中四国地区の事情として、大学進学でいろんなところから学生が来るけれど、就職を機に地元に帰ったり、関西や関東へ配属されたりして中四国地区から離れる人が多いんです。

数少ない残った大人の方たちが、中四国地区のいろんな県(岡山県、広島県、徳島県、香川県、高知県、愛媛県、山口県、島根県)で開催される試合会場まで、片道2時間、3時間掛かるのに、審判をしに来てくださる姿を見ると、なんていうんだろう、それでも好きなことなんだなって、ちょっと上から目線になっちゃうんですけど、思えたんです。

学生の頃から、ラクロスだったり、審判だったり、このコミュニティが好きなんだろうなっていうのをすごく感じていて、そういう人たちに自分はお世話になったんだから、自分ができることを中四国地区に還元したいと思えたというところはあります」。

これまで中四国地区で審判を続けてきた大人の方々の思いが学生に伝わり、卒業しても、また同じように次の学生に繋げようとしている。こうやってよい循環が生まれているのは素晴らしいと感じられます。

「大学生のときに同期の子も審判をしていたのですが、社会人に上がる時に継続したのは自分だけだったんです。悲しいことではあるんですけど、それが私としては、逆に続けようっていう気持ちができたなって思います。

私はいま中四国地区の幹部で派遣担当をしているんですけど、自分が続けることで他の人も続けようと思ってくれるような、そういう影響があればいいな、続けている姿勢をこれからの人に見せたいなと思うようになりました」。

昇級できる環境があることを伝えたい

以西さんは2025年10月に2級に昇級します。

「2級になるために、色々な試合に入らせていただいたり、指導していただいたりっていう機会が多くて、中四国地区内で2級への昇級というのが少ない中で、この地区内にも昇級のために努力できる環境があるっていうのを、昇級を希望している子たちに示す…、というと大げさですけど、見せたかったし、一緒にお互い技術向上できたらなぁと思って今も活動しています。この一年振り返ってみると、そういう姿を学生に見せたかったんだと思います。ちょっと恥ずかしいんですけど」。

いろんな地区の審判員と知り合うこと

以西さんの配属先は未定ではありますが、来年4月以降は徳島(中四国地区)からは離れてしまいます。

「(中四国地区から離れても)あかつきカップや沖縄オープン(NPO法人FOGOJAPANが主催しているラクロスの国際オープン大会。2月上旬~下旬に開催)に参加させてもらって、いろんな地区にお世話になった方ができたことで、そういう方とまた吹きたいなっていうのがあります。

中四国地区審判部次長の山田さんも『あかつきカップで一緒に吹いたメンバーがいれば、どこの地区に行っても吹きやすくなる。どの地区でも審判を続けやすくなる』というようなことをおっしゃっていて、自分もそうだなーと思っています。

というのも、ちょうど前回のあかつきカップで一緒に吹いた子とつま恋(正式名称「LACROSSE/つま恋/SPRING CUP」。2月~3月に開催される大会のこと)で再会する機会があって、そういうのもいいなって」。

「できていない」と自分で感じられるから成長がある

中四国地区審判員(女子競技)のみなさん

最後に、中四国地区の学生審判員や、いろんな大会で一緒に笛を吹いた審判員のみなさんへ続ける楽しさを伝えてもらいました。

「(このインタビューを通して)ずっと人とのつながりがあったからと言っておいて、自分自身のことになってしまうのですが…」。

以西さんが躊躇います。

どうぞ、どうぞ。

「自分が審判を続けてきた理由って何だろうって考えて、振り返った時に、あかつきカップに参加したのも大きかったし、中四国地区が好きだっていう理由もあるんですけど、自分としては、審判ってすごい『成長』を感じられると思ったんです。

審判ってセンスもいると思うんですけど、私は本当に(センスが)ない人で、審判に向いてないなーって思うこともたくさんあるんです。

これまで関わってくださった皆さんからは『人と比べなくていいよ』とか『あんまりマイナスなこと考えなくていいよ』って言われるんですけど、自分としては、(できていないと感じることを)マイナスに捉えてはいないんです。

他の人と比べてしまうからこそ、他の審判の方を見て、いいところだったり、真似したいところだったりを吸収できているのかなって感じるところも多いんです。

できないところだらけだから、改善したいところもたくさんもあります。もっと上手くなって、今まで関わってくださった方たちとまた吹きたいなとか、もっとうまくなって審判をやりたいなとかを繰り返すことで成長できるんだと思うんです。

その成長が楽しいんです」。

審判を続けている人が何を「楽しい」と感じるのか。

それを知りたくてこのコーナーはありました。

以西さんが「楽しい」と思うことは、自身の「できないこと」を知ることと、それを「できるようにすること」との繰り返しから生まれる「成長」でした。

以西さんがこれまで参加したあかつきカップや沖縄オープンでも1級・2級審判員の方々が参加していたと言います。彼女たちは全国大会も吹き、自地区では審判員の育成もされているような審判員です。

「そういった方々が、ずっと向上心を持っておられるのを感じました。そのことにすごく刺激を受けているというか、向上心を持っておられる方と審判ができる環境も楽しいなって思っているんです」。

以西さんが続ける理由は自分自身の「成長」や、そのことに気づかせてくれた向上心を持つ先輩方の存在でした。

以西さんは、インタビューに答える前に、ゆっくりゆっくり時間を掛けて考え込みます。

以西さんが考え込むたびにじんわりするのは、この長い時間のあとに、以西さんが大事にしてきたものを見せてもらえると分かっているからです。

できないことを成長の前触れだと感じられる心は、どんな立場の人にも通じると思います。

そして、以西さんに「向上心を持っている人」として挙げられて、影響を与えてきた大人の審判員たちの存在にも、胸が熱くなり、審判員を続けてきてくださったことに改めて感謝したくなります。

このコーナーは今回で最終回です。

迷っている人の一助となりますように。

お話を聞かせてくださった審判員のみなさん、読んでくださったみなさん、ありがとうございました。

【プロフィール】

名前:以西奈央さん

≪スタッフ歴≫

  • 2021年~2024年 徳島大学 チームスタッフ

≪審判員歴≫

  • 2022年~ 審判員(3級)
  • 2025年10月~ 審判員(2級)

Photos 岡山大学女子ラクロス部提供
Text by 日本ラクロス協会広報部 岡村由紀子

この記事が気に入ったら "" をチェックしてね♪

いいね!
読み込み中...

Related Article関連記事

Latest Article最新記事 一覧へ

Feature 特集一覧へ