Columnコラム

2025年12月21日(日)、スピアーズえどりくフィールド(東京都江戸川区)。この日、学生ラクロス界の新たな歴史が刻まれる。「日清食品presents第16回ラクロス全日本大学選手権大会」決勝戦。男女ともに、1年間積み上げてきたすべてを懸けた戦いが、同じフィールドで繰り広げられる。
午前11時、女子決勝のドローを合図に、長い一日が始まる。日本体育大学(関東1位)と関西学院大学(関西1位)による、6大会ぶりの頂上決戦。
そして午後3時、男子決勝のフェイスオフ。名古屋大学(東海1位)と早稲田大学(関東2位)が激突する。
地方の挑戦と伝統の復権。進化と復権。異なるテーマを持つ4チームが、学生日本一の座を懸けて戦う。
一体どんなドラマが待ち受けているのだろうか。
今回は決勝戦に先立って、準決勝で見せた各チームの戦いぶり、そして決勝戦の見所をお伝えしていきたいと思う。
東海初の快挙へ。名古屋大学が挑む、早稲田大学の伝統
歴史を変えた残り2秒
2025年11月24日(月祝)、大井ホッケー競技場メインピッチ。誰もが明治学院大学の勝利を確信していたであろう。
スコアは4-3。明治学院大学がリードし、残り時間は30秒を切っていた。明学大が自陣でボールを持った状態。「このまま試合終了か」と誰もが思ったその時だった。
名古屋大学OF陣が文字通り”決死のライド”でボールを奪取。こぼれ球を拾った#11傍士陽輝選手がそのままシュートを決め、土壇場で同点とすると会場のボルテージはMAXに。
同点ゴールが決まったのは試合残り2秒。名大#7前田賢蔵主将が試合後に語った「1年間磨いてきたグラウンドボールとライドの意識」が、全学準決勝の土壇場で結実した瞬間だった。
サドンビクトリー、主将が決めた決勝ゴール
サドンビクトリー開始後、意外にも決着はすぐに着いた。フェイスオフを制したのは名大#12室拓磨選手。自陣でしっかりとポゼッションを確保すると、ボールは#35小嵐駿亮選手へ。小嵐選手が1対1でDFを引きつけ、中へとパスを通す。
そのボールを受けたのは、名大#7前田賢蔵主将。スティックをコンパクトに一振りし、倒れこみながら決勝ゴールを突き刺した。これが男子東海地区勢で歴史上初となる決勝進出の逆転弾となり、同時に試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
最終スコアは4-5。名大がサドンビクトリーにもつれる激戦を制し、男子東海地区勢として初めて全日本大学選手権の決勝戦へ駒を進めた。
「グラボとライド」――1年間のテーマが結実
試合後、決勝ゴールを決めた主将の#7前田賢蔵選手は率直な思いをこう語っている。
「準決勝で関東のチームに勝てたことが本当に嬉しいです。東海地区にとってずっと超えられない壁だった相手に、学生日本一をかけたステージで勝つことができた。地方でも関東のチームを倒せる、ということを証明できたかなと思います」
前田主将がこの試合のポイントにあげたのは”追いかける展開になっても、すぐに追いつける粘り強さ”だった。
「4Qで逆転されたときも、観客の方々がアウェイなのに完全にホームのような雰囲気を作ってくれていたので、『1点取られても絶対に負けない』と思えました。ベンチからも『まだいける』『顔を上げよう』という声がずっと出ていました。その空気が最後のライドにつながったと思います」
誰もがもう駄目だと思うような場面でも、名古屋大学は最後の最後まで諦めようとしなかった。これがこの試合を勝ち切れた要因となっている。
前田主将は4Q残りわずかの場面で生まれた同点ゴールを「1年間やってきたことの集大成」だと表現する。
「この1年、ずっと『グラボとライド』をチームテーマに掲げてきました。最後の最後まで、1つのグラウンドボールと1つのライドを諦めないこと。あのラストプレーでチェックダウンして拾って#11の傍士が決めてくれたのは、まさに自分たちのラクロスが体現できた瞬間でした」
守護神が支えた勝利
この試合、名大DF陣の要となったのがゴーリー#0松田涼平選手である。均衡した時間帯に相手の決定機を次々と止め、4Qで明学に流れが傾きかけた場面でもチームを支えるセーブを見せ続けた。
自身のプレーを振り返り、まずあげたのは”流れを相手に渡さないセーブ”だった。
「点が動かない時間帯で、自分が1本止め切れるかどうかでチームの流れが変わると思っていました。特に3Qは0-1、0-2の局面でセーブし続けることができて、ディフェンス全体としても粘ることができたのかなと感じています」
どんなピンチでも後ろには頼れる守護神がいる。松田選手が名大DF陣にもたらしている安心感は非常に大きい。
なぜこんなにもセーブ力が高いのだろうか。
「今年は特にシューターの打ち方や体勢を見ることを大切にしてきました。相手がどういうモーションからどこを狙いやすいのかを自分のノートに書き溜めて分析しています。日頃の練習から、うちには良いシューターがたくさんいるので、その人たち相手に『見て・予測して・止める』を繰り返してきた成果だと思います」
続けて、決勝に向けては「さらなる分析を重ねる」と前を向く。
「残り1ヶ月で、相手のオフェンスの特徴やシューターの癖をしっかり分析して準備したいです。今日のように自分が止めることでチームに流れを呼び込めるようにしたいですね」
名大DFを支えた守護神の背中は非常に頼もしく、決勝でも相手チームにとって大きな脅威になりそうだ。
東海地区全体の勝利
さらに、この勝利は名古屋大学だけのものではないと前田主将は強調する。
「東海地区はチーム数が少ないぶん、どの大学とも繋がりが深いです。合同練習や練習試合で一緒に汗を流してきた仲間の代表として戦っている感覚があります。だから、この勝利は名古屋大学だけのものではなくて東海地区でラクロスをしているみんなの勝利だと思っています」
東海地区の絆が生んだ勝利。この一戦が名古屋大学だけではなく東海地区を背負った戦いであったことが前田主将の言葉から理解できる。
圧倒的な攻撃力――早稲田大学が見せた「フルフィールドオフェンス」
テクニカルな戦術で岡山を圧倒
一方、11月30日(日)、京都府京都市・たけびしスタジアム京都で行われた準決勝。早稲田大学は岡山大学を11-5で下し、決勝進出を決めた。
1Qから早稲田のテクニカルな戦術が光る。開始8分半、マンアップオフェンスの間に#16山﨑柚貴選手が得点。ゴール裏で味方にパスをしたと見せかけて、ボールを持ったまま1on1。岡山ディフェンスは#16山﨑選手がボールを持っていると気づかず、ふいをつかれる形となった。
続く2本目のフェイスオフ後、残り2分に早稲田が追加点。ゴール裏からボールを運ぶ#7小川隼人選手に付いている岡山ディフェンスが#13山口遼真選手にピックを掛けられ、ボールを持つ#7小川選手を外せないと判断した岡山ディフェンスは、#13山口選手をフリーにしてしまう。フリーとなった#13山口選手が#7小川選手からのパスを受けてシュート。0-2とリードを広げた。
日本代表ロングコンビの攻撃参加
早稲田には二人の日本代表がいる(2026年1月開催のアジア・パシフィック選手権大会 2026へ出場)。主将でディフェンスの#9野澤想大選手と同じくディフェンスの#2中原健太選手である。
#2中原選手が1得点を上げ、#9野澤選手が#22花井コルトンヘイズ選手へアシストパスを出し、早稲田の得点に絡んだ。
「フルフィールドオフェンスで、全員が点を取りに行くっていうのは、今年のチームの強みなのでそれは体現したいと思っていました。自分としても、アシストも一個ありましたし及第点かなと思っています」(#9野澤選手)
「勝つ」確率を高めるために
決勝戦へ向けて、この1年間チームとして目指して来たものはなんだろうか。
「チームとしての目標は日本一なので、『勝つ』確率を高めるために、どんな状況でもマインドセットを同じにすることを日頃の練習から意識しています。個人としては、自分は天井を引き上げることをしないといけないので、上手くなり続けることを意識しています」
12月21日の決勝戦に向けてはどのような準備をしているのだろうか。
「(11月24日に開催された準決勝の)明治学院大学vs名古屋大学の結果が出た瞬間から、(初めて当たる)名古屋大学に対しても、今まで通りいけるように準備をして、当日やるべきことをやるだけだと思っています」
早稲田の多彩な攻撃パターンと、全員が得点に絡むフルフィールドオフェンス。過去15大会で5回の優勝という実績を持つ早稲田が、6回目の優勝を目指す。
男子決勝の見どころ〜初出場の「挑戦者」vs 伝統校の「復権」〜
早稲田大学は過去5回の全学優勝を誇る名門でありながらも、2019年を最後に大学選手権への舞台に姿を現すことができなかった。
その苦労を知るからこその、この大学選手権大会での安定した勝ち上がり、ミスの少ない精度の高い試合運びだろうか。
未だ関東代表の大学以外が頂点に立ったことのない全学で、その使命を背負った都の西北・早稲田が、決勝戦で魅せるのはどんな試合なのだろうか。
対する名古屋大学。
関東1位の明治学院大学を準決勝戦で制し、歴史を変えてきた新時代の挑戦者だ。
彼らが背負うのは名古屋大学、東海地区にとどまるところにあらず、地方でラクロスをするすべてのラクロッサーの想いだろう。
初出場の挑戦者が歴史を作るのか、伝統校が復権を果たすのか。
彼らの躍動に、注目だ。
“当たり前”を極めた新生日体 vs ドローで流れを掴む関学――6大会ぶりの頂上決戦
圧倒的な強さを見せた日本体育大学
2025年11月24日(月祝)、大井ホッケー競技場メインピッチ。日本体育大学は南山大学を16-2で圧倒し、決勝へと駒を進めた。
試合開始直後、左横から1on1を仕掛けた#65小林和可選手が南山DFを置き去りにして、シュートを決める。その後も日体の攻撃は止まらず、1Qだけで3得点。2Qには#26人見リカ選手が3連続得点を含む4得点を挙げ、前半だけで7-1とリードを広げた。
「当たり前のことを当たり前に」
試合を振り返って、日本体育大学の隅田主将が口にしたのは「当たり前」の重要性だった。
「当たり前のことを当たり前にできることがうちの強みです。それができなければ、逆に弱みにもなる。今日の試合は、全員がグラウンドボールに徹底してこだわれたことが良かったです」
主将が真っ先に挙げたのは、華やかな得点シーンではなく”グラウンドボール”だった。五分のボールをどちらが拾うか――その積み重ねで試合の流れが決まることをチーム全員が理解していると言う。
続けて、その”当たり前”が試合だけで作られているわけではないと隅田主将は語る。
「練習でグラボをちょっとでもサボると、それがそのまま試合に出ます。だから練習から周りと声をかけ合って、グラボ一つ一つの強度を落とさないことを大事にしています」
日常の一つひとつのプレーに妥協しないこと。それが日体ラクロスを支える土台になっている。
「日体らしさ」の定義
「相手に合わせすぎず、自分たちのやるべきこと・やりたいことをやろうと話していました。試合開始から、それを全員で体現すること。そこで”日体らしい強さ”を出そうと意識していました」
相手の出方をうかがうのではなく、自分たちのリズムを自分たちから作る。その姿勢が日本体育大学における試合の入りの強さを形成している。準決勝でも、1Qから主導権を握っていた。
また、隅田主将は今年の”日体らしさ”をこう定義する。
「ひとりひとりが持っている高い個人技術を、パワフルにぶつけていくラクロスです。目の前の相手との1対1の勝負にこだわり続ける。その1対1の積み重ねが、結果としてチームの強さになる――それが”日体らしさ”だと思っています」
1対1で負けないこと。そのシンプルなこだわりが、”日体らしさ”の核になっている。
「新しい日体」で日本一へ
日本体育大学の目標は”全日本選手権大会優勝”だが、隅田主将はまずは全日本大学選手権で優勝することを見据えていた。
「学生日本一は自分たちの目標にとってはあくまで通過点です。ただ、まずはそこをしっかり獲りにいきます。決勝までの残り1カ月で日体ラクロスをさらに磨き上げて、日本一にふさわしいチームとして勝ち切りたいです。良い意味で”今までの日体らしくない日体”にもなりたい。自分たち自身をアップデートしたうえで、『やっぱり日体は強いよね』と言われるチームで決勝に臨みたいです」
「当たり前」を極めた先にある新しい日体の姿。その答え合わせが、この先の全日本大学選手権大会決勝で行われる。
ドロー支配で勝利を掴んだ関西学院大学
前半のドローをすべて関学へ
11月30日(日)、京都府京都市・たけびしスタジアム京都で行われた準決勝。関西学院大学は立教大学を8-5で下し、決勝進出を決めた。
この試合で終始ドロワーだった関学#0大井里桜選手(3年生)は、前半のドローすべてを関学ボールへとしてきた。
女子ラクロスにおいてドローを制する者が試合を制すると言われる通り、本準決勝でもドローが得点に大きく影響をした。
1Q最初のドローは、グラウンドボールを関学#63廣瀬珠桜選手が拾い関学ボールでスタート。その後も、2本目のドローでは#0大井選手が自分で上げて自分でボールをキャッチ、3本目、4本目も関学がポゼッション。立教がなかなか攻撃できないまま4-0で1Q終了。
2Qも関学のドロー支配が続き、前半を6-0とリードして折り返した。
「自分で取れるドロワーになる」
関学#0大井選手に、ドロワーとしてこの1年意識してきたことを聞いた。
「去年は、ドローで相手に勝てないことが多かったので、今年は自分で取れるドロワーになることを意識してきました。去年はパワーでパーンと飛ばし、周りに頼るドローの仕方でしたが、今年はコンパクトにして、自分で取れる範囲に上げることにこだわりました」
関学ボールとなった11本のうち、3本は#0大井選手が自分で直接取っている。
準決勝で、これをすると決めていたものはあったのだろうか。
「反応にこだわろうと思っていました。シンプルに相手より早く審判の笛に反応して上げるということだけ今日はこだわっていました。それはできたなと思っています」
女子決勝の見どころ
「1対1の強さ」の日体 vs 「ドローとチーム力」の関学
準決勝で南山大学を16-2で圧倒した日体。隅田主将が語る「1対1の勝負にこだわり続ける」ラクロスが武器だ。人見選手ら1年生の台頭もあり、高強度練習で培ったフィジカルと個人技術の高さで勝負する。
対する関学は、大井選手のドロー支配力と、井出選手を中心とした組織的な攻撃が強み。準決勝で見せたように、ドローで主導権を握り、パス回しで相手を崩し、確実に得点に結びつける戦術的成熟度の高さが光る。
大井選手のドロー vs 日体の中盤支配力。この攻防が試合の行方を大きく左右するだろう。
決勝に強い両チーム
日体は過去3回の決勝出場で全勝(2012, 2014, 2022年)という実績を持つ。決勝の舞台で力を発揮する勝負強さが持ち味だ。
関学は過去15大会で8回決勝進出、3回優勝。第10回大会(2018年)以来6大会ぶりの優勝を目指す。決勝勝率は3勝5敗と、日体ほどではないものの、決勝の舞台に慣れているチームだ。
この頂上決戦で、どちらがその伝統を証明するのか。
12月21日、すべてが決まる
同じフィールドで交錯する、4チームの物語
2025年12月21日(日)、スピアーズえどりくフィールド(東京都江戸川区)。
午前11時、女子決勝のドローで一日が始まる。日本体育大学(関東1位)と関西学院大学(関西1位)による、6大会ぶりの頂上決戦。
「当たり前」を極めた新生日体が、2大会ぶり4回目の優勝を果たすのか。ドロー支配で流れを掴む関学が、6大会ぶり4回目の優勝を果たすのか。
そして午後3時、男子決勝のフェイスオフ。名古屋大学(東海1位)と早稲田大学(関東2位)が激突する。
「地方でも日本一を目指せる」ことを証明したい名大が、男子東海地区初の快挙を成し遂げるのか。「どんな状況でもマインドセットを同じに」を貫く早稲田が、6回目の優勝を果たすのか。
4チームそれぞれの1年間の積み重ね。準決勝を勝ち抜いた者たち、散った者たちすべての想いを背負って、学生ラクロス界の頂点が決まる特別な一日。
会場でしか味わえない、選手たちの声、スティックワークの音、そしてボールが空を切る音。観客席から間近で見る、日本学生ラクロスの最高峰の戦い。
是非とも会場で熱闘をご覧ください。
会場へ行けないという方は、ラクロスライブ配信をぜひご覧ください。
決勝戦 試合情報
📅 日時
2025年12月21日(日)
- 女子決勝:11:00 ドロー
- 男子決勝:15:00 フェイスオフ
🏟️ 会場
スピアーズえどりくフィールド(東京都江戸川区)
🏆 対戦カード
【女子】
日本体育大学(関東1位) vs 関西学院大学(関西1位)
【男子】
名古屋大学(東海1位) vs 早稲田大学(関東2位)
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【準決勝レポート】
【出場チーム紹介】
北海道地区
東北地区
関東地区
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東海地区
関西地区
中四国地区
九州地区
【配信アーカイブ】
2025年12月21日、スピアーズえどりくフィールド。
学生ラクロス界の頂点は、ここで決まる。
Photo by 日本ラクロス協会広報部 中村真澄/海藤秀満
Text by ラクロスマガジンジャパン編集部





