Columnコラム

【道なき道を行く人たち】〜NeOを支え、競技環境を切り拓く、橋本南美さん〜

※写真は、第29回ラクロス全日本選手権大会(2018年開催)でNeOが初優勝したときのものです(PUISTO提供)。

 

チーム運営のモチベーションアップに!

「突き抜けた取り組み」をしているチームや人物を紹介します。


第1回 NeOを支え、競技環境を切り拓く人 橋本南美さん

2025年1月18日「日清食品 presents 第34回ラクロス全日本選手権大会 A1」で、2大会連続5回目の優勝を果たしたNeO(ネオ)。その活動を支えているのが、NeOの創設メンバーでもあり、現在もその運営に尽力している橋本南美さん。どんな取り組みをしているのかお聞きしました。

新チームを立ち上げるっておもしろそう

NeO選手時代の橋本さん(2018年6月30日撮影)

NeO(ネオ。女子競技。東日本クラブチームリーグ/チャンピオンリーグ所属)は、橋本さんが社会人になって間もない2013年に仲間たちとともに立ち上げたクラブチームです。

NeOは、2018年度に全日本選手権大会で初優勝するのですが、この経験が橋本南美さんの活動を次のステップへと導いたと言います。

 

「わたしは、2009年に明治大学に入学し、2012年まで4年間、明治大学でラクロスをしてきました。4年生のときは関東学生リーグ戦で準優勝しました。

当時(2012年度)は、優勝チームしか全日本大学選手権大会へ出場できなかったので、わたしたちはここで引退となりました。

 

2013年4月から社会人となったのですが、大阪での研修と配属先がどこになるか分からなかったこととで、この1年間は明治大学のアシスタントコーチのみで、選手としてクラブチームには所属しませんでした。

 

自分が4年生のときに準優勝で終わったことが悔しかったのと、一つ下の学年で『第5回FIL※女子19歳以下世界選手権大会』(2011年開催)の日本代表の選手たちが新チームを作りたいと言ってきたこととで、新チームを作ってそこでプレーするのもおもしろそうだ、と彼女たちが引退したタイミングで一緒にNeOを作りました」

※ FILとは:2008年~2019年4月までの「国際ラクロス連盟」のこと(Federation of International Lacrosseの略)。現在の英語表記は、「Wold Lacrosse」である。

クラブチームが日本一になる価値ってなんだ

こうして、2013年12月に新チームNeOが誕生し、翌2014年度の東日本クラブリーグ戦(チャンピオンリーグ2部)に初出場しました。

「NeOを作って2~3年で日本一になると思っていた」(橋本さん)が、全日本選手権で優勝したのは創部から5年後の「第29回ラクロス全日本選手権大会」(2018年開催)においてでした(※2)。

【全日本選手権 歴代優勝チーム一覧】

 

「日本一は本当に嬉しかったんです」

 

橋本さんはそう振り返ると同時に、一つの疑問が生まれたと言います。

 

「社会人で日本一になる意義って何だろう」

 

ラクロスの試合結果は、新聞やテレビでも報じられない(当時)。

もし、大学生なら就職活動で日本一になる過程を話し、就職に結びつけることができるかもしれない。

けれど、NeOは全員が既に社会人。ラクロスの結果よりも「社会人としてどういうことができるか」で評価されます。

 

「自分たちがラクロスで日本一になる社会的な価値が見えなかった」

 

それでも、一緒に戦う仲間がいて、日本一になった瞬間というのは今でも忘れられないくらいとても嬉しいことだったからこそ、「本気で取り組んできた時間に対する価値を高めたい」と橋本さんは思いました。

第29回ラクロス全日本選手権大会初優勝で応援席に挨拶をするNeO選手たち(2018年12月16日撮影)

 

「NeOのスローガンである『ラクロスから世界へ』を実現するためにも、社会人で夢がある環境、そもそも社会人で競技に取り組む環境が整わないといけないと思いました。

 

でなければ、ラクロスを続けることは苦しいだけということになり、競技の発展もなくなります。

NeOが世界と戦えるチーム・選手になっていくためにも、そのための基盤を整える必要があると考えました。

橋本さんは2021年に8年間続けた仕事を辞めて、NeOの運営体制を整えるため法人化という新たな一歩を踏み出しました。

仕事を辞めるという決断

「NeOを作ることも、会社を設立することも、どちらも私の強い意志があるというよりは、人に恵まれていたからできたことだと思っています。

自分が旗振り役をやらないといけないような環境に身を置くことが多いんだと思います。

そんなにみんなの思いがあるんだったら、自分が行動に移して世の中や状況が変わるならやろうと思ってできたのがNeOであり、会社の設立です。

仕事を辞めるというのは確かに勇気が必要でしたが、変えたいものがあるからやってみようと思えました」

 

法人化は、企業や自治体の力を借りるときに必要な形だったから、と橋本さんは言います。

任意団体では企業などから対等に話をしてもらえない。支援していただくにも、個人名義の口座では振り込んでももらえない。

法人化はラクロスが社会と繋がるために必要なことでした。

ラクロスの何が企業へ響くのか

さて、法人登記と口座開設により、橋本さんは企業や自治体と対等に話せるようになったわけですが、どのように「ラクロス」を営業しているのでしょうか。

 

「現状、ラクロスは他のメジャースポーツと比較すると、企業様にとっての広告効果は高いとは言えません。

では、ラクロスが企業様に対してできることは何なのか?

一つは、『女性の活躍』という文脈。

ラクロスの選手は普段、一般企業で働きながら競技をしています。

競技と仕事を両立しながら自己実現していく女性の姿が、女性の活躍を支援している企業様に興味を持ってもらえる文脈となります。

もう一つは『採用』の文脈。

大学生の新卒採用でも、社会人の中途採用でも、人材確保のために『自分たちの会社を知ってもらいたい』という企業様はたくさんあります。

NeOには、毎年50~60人のメンバーがいます。

また、わたしたちは全国各地で大学生にラクロスを教えることをやっています。

NeOが持つメンバー数と人脈が、『採用』という文脈から企業様からの支援につなげることができます」

PUISTO代表として仕事をする橋本南美さん(撮影協力:八洲興業株式会社)

 

人数はどうやって確保しているの?

NeOには毎年50~60人いるということですが、どのようにして選手を集めているのでしょうか。勧誘活動をしているのでしょうか。

 

「関東地区(東日本支部のチャンピオンリーグ)では、40名以上の部員を抱えているチームばかりだと思います。

最近では、卒業を迎える選手たちが『ラクロスを続ける』という前提で、自然と社会人チームを探すようになってきたように感じています。

各チームの特色を見て、自分に合うチームを選んでプレーするようになってきています」

 

他支部の部員確保の苦戦を考えると、東日本支部は環境が全然違うのだということが伺えます。

 

「NeOは全日本選手権大会で優勝したチームだということで、地方での認知度が高いところがあります。地方にラクロスを教えに行くとそう感じます。

地方の大学でプレーしていた選手が、卒業後に東京配属になってラクロスしたいなと思ったときに、まずNeOを見に来てくれるというのが、認知度があるメリットかなと思います」

 

日本という「世界」

NeOのスローガン「ラクロスから世界へ」の「世界」は、「NeOというチームとして世界の強豪チームと戦い勝つという意味である」と、NeO主将の古井采那さんからインタビュー時(※3)教えてもらったことがあります。

 

※3 【日清食品presents第34回ラクロス全日本選手権 A1 観戦予習企画】主将の頭のなかを知る~第2回 NeO編~

 

橋本さんは、「そこに補足がある」と言います。

 

「ラクロスを日本の社会でもっと価値を上げていかないと日本のラクロスは発展していかないという課題を自分たちで感じていて、『ラクロスから世界へ』の『世界』には『日本という世界』も入れていく必要性を感じています。

 

日本のなかでもっともっとラクロスの普及を促進していかないと世界と戦うチームにならない。

アメリカ、カナダは小さいときからスティックを触っています。

三角形の頂点を上げるだけじゃなく、下も広げることが必要なんじゃないでしょうか。

 

わたしたちもラクロスに出会って自分の可能性が広がったと感じていて ラクロスの力を使って日本の社会、日本の世界を盛り上げられるんじゃないかなと思っています。

 

わたしたちは高校までは違うスポーツしていましたが、大学でラクロスと出会い、日本一を目指したり、日本代表になれたり、世界が広がりました。

ラクロスはラクロスだけじゃないところがいいところだと思っています。

 

ラクロスが普及した世の中になれば、仕事をしながらも本気で競技ができるんだとか、スポーツを諦めなくてもいいんだとか、そもそも違うスポーツに変えていいんだ、といろんな常識が変わるんじゃないかと思っています。

 

ラクロスって『主体性が育ちやすい』とか『課題解決能力が育ちやすい』とか、ラクロスで身に付く力があると思っているのですが、『自分でやりたいと決めてやる』といったラクロス特有の価値は、他の大学の体育会にも転用できるところはたくさんあると思います。

ラクロスが持っている力を『日本』っていう世界に広げていって、普及させていきたいという思いもあります。

 

自分たちがラクロスの可能性を一番信じているし、ラクロスだからできることがたくさんあると思っています」

 

NeO選手時代の橋本さん(2018年8月5日撮影)

 

橋本さんが目指す、これからのラクロス環境づくり

橋本さんの「ラクロスの可能性を信じる」という言葉は、ラクロスに何度も助けられたわたしたちの胸を熱くさせます。

 

橋本さんは、NeOの活動を社会とつなげ、持続的に発展させていくために法人を立ち上げました。その名前が「合同会社PUISTO(プイスト)」です。

「PUISTOとは、フィンランド語で『公園』という意味です。

『公園』って小さい子でも大人でも夢中になって遊べる場所です。

わたしたちはラクロスで夢中になって遊んできたし、これからも遊びたい。

 

日本のトップレベルの選手が思いっきりラクロスできる環境を作ることによって、いろんなラクロスをしている人たちがラクロスを楽しめる環境になったり、社会人でもラクロスを続けたいと思ってもらえたりするといいなと思っています。

 

トップレベルの選手がキラキラして楽しそうにラクロスをしていないと、みんなラクロスって楽しいよね、やりたいよねとならないと思うので、夢中になって遊べる場所を作っていきたいというのが一つです。

 

そういった場所として、昨年(2024年)からは、大井ホッケー競技場と連携し、ラクロススクールをスタートしました。

小学生から大人までが気軽に体験できる「ビギナーコース」と、小学生~大学生の経験者がさらなるレベルアップを目指す「ユースコース」を設けています。

今後は、自治体の方々や他競技チームとの連携による体験会の開催や、企業向けの懇親イベント・研修など、ラクロスの魅力をより多くの場で感じてもらえる機会も増やしていく予定です。

 

わたし自身の目標としては、ラクロスで幸せな人を一人でも増やして、ラクロスで日本っていう社会にインパクトを与えたい。

それを成し遂げられるようにいろんな挑戦をしてきたいなと思っています」


【プロフィール】

名前:橋本 南美(はしもと みなみ)
  • 2021年~ 合同会社PUISTO代表

選手歴:

  • 2009年~2013年明治大学(背番号#62)
  • 2014年~2019年 NeO(背番号#0)

コーチ歴(女子競技):

  • 2013年~2016年 明治大学アシスタントコーチ
  • 2017年~ 武蔵大学ヘッドコーチ
  • 2021年~2024年 21関東ユース アシスタントコーチ
  • 2022年~ 22関東ユース ヘッドコーチ
  • 2023年~ 中高生向けラクロスクラブManta RayLacrosse Clubコーチ
  • 2024年~ 日本大学ヘッドコーチ

Photo by 日本ラクロス協会広報部 海藤秀満
Text by 日本ラクロス協会広報部

 

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