Columnコラム

「わたし」が審判員を続ける個人的な理由 〜審判員としてフィールドに立ち続ける社会人たち〜

ラクロスの試合を支える存在――それが審判員です。学生時代に笛を吹き始めても、社会人になると仕事や生活の変化により、多くの人が審判活動を続けることを難しく感じます。しかし一方で、社会人になってからもフィールドに立ち続ける審判員がいます。この企画ではそんな審判員たちにインタビューし、「なぜ社会人になっても審判を続けるのか」、そして「審判の楽しみ方」を掘り下げていこうと思います(全4回)。


第1回 教え子の得点をコールしたい 〜藤原達矢さんの場合〜

藤原達矢さんは、2025年度より九州地区審判部次長(男子)に就任し、前年2024年度には審判功労賞を受賞しています。審判功労賞とは、審判技術を問わず、純粋に地区活動に貢献した方の努力を称える賞です。藤原さんの「九州地区への貢献」とはどのようなものだったか。また、社会人になっても審判員を続けてきた個人的な理由はなんだったのか、お聞きしました。

九州地区の審判員事情

藤原達矢さんは、2019年に九州大学を卒業したあと同大学院に進学し、九州大学のコーチをしながら、審判員を続けました。大学院卒業後の2022年度に藤原さんが中心となって「新規審判員獲得プロジェクト」(以下、同プロジェクト)を立ち上げることになります。そのころ同プロジェクトを立ち上げなければならないほどの、何か危機的な状況が九州地区にあったのでしょうか。

「もともと九州地区の審判員の特徴として、九州大学に所属する審判員が全体の約9割を占めるということがありました。一つの大学に審判員が偏っていることの問題点としては、九州大学が試合の時に吹く審判員が見つからないこと。九州地区のFINALには長い間九州大学が進出しているので、同じくFINALを吹ける審判員が見つからないことが挙げられます。

また、大学卒業後も継続する社会人審判員を輩出できないということも九州地区の特徴です。もともと少なかった社会人審判員が、2020年〜2021年のコロナ禍の影響やライフステージの変化で、2022年度以降抜けていく(戻ってこない)という事態が生じました」(藤原さん)。長期で続けてくれる審判員を増やすためにも、まずは分母を増やそうと立ち上げたのが同プロジェクトだったのです。

「新規審判員獲得プロジェクト」が目指すところ

同プロジェクトは、名前の通り、新規で審判員の資格を取得する人数を増やすことが目的ですが、まずは各チームでルールに触れてもらう、ルールに興味を持ってもらうことが大切だ、と月に一度、藤原さんが中心となり学生連盟やクラブ連盟を巻き込んだルール勉強会を開催しました。

「試験があるから勉強するのではなく、ルールを知っておくと試合や練習で役立つ、競技レベルが上がるからチームのなかでルールに触れてもらう機会を増やしたいと思っていました」(藤原さん)。九州地区全体の取り組みにできたのは、2018年に藤原さんが日本学生ラクロス連盟九州地区委員長(以下、学連委員長)を経験していたことで、事務局にも協力してくれる人がいたからです。

チームスタッフが審判員になること

新規審判員獲得プロジェクトのメンバー(藤原さんは一番右)

九州学生リーグ戦出場チームは、九州大学・福岡大学・西南学院大学・北九州市立大学・中村学園大学・久留米大学・立命館アジア太平洋大学(APU)の7チームあり(2022年度当時)、九州地区の審判員の9割がプレーヤーでした。藤原さんは、審判員全体で1割程度だった「チームスタッフ」(以下、スタッフ)の新規審判員獲得にも力を入れます。

「九州地区でスタッフといえばほとんどが女子部員です。練習中に審判資格を持つプレーヤーに、審判資格を持たないスタッフが今のプレーはファールではないか、と思っても自信が持てずに言えない。審判資格を持っていても、それは同じでした。そこで、九州地区の既に資格を持つスタッフへはより深くルールを勉強することで自信をもってもらい、資格を持たないスタッフへは資格を取ってみようと促しました」(藤原さん)。

藤原さんは、九州大学・福岡大学・西南学院大学・中村学園大学の4大学のスタッフに審判資格を取らないかと声を掛けました。「審判資格を持ち、練習中もプレーヤーにはっきりと『今のプレーはファールだ』と言えて、チームの強化に貢献するスタッフを見て、その姿に憧れて審判員になってくれるスタッフが増えたらいいなと夢見て、勉強会を行っていました」(藤原さん)。

「新規審判員獲得プロジェクト」3年間の結果

九州地区では、2022年度は11名、2023年度は21名、2024年度は44名と毎年前年比倍の新規審判員が誕生しました。「3年間の合計は76名ですが、大学卒業後、就職で他地区へ異動するなど抜けた審判員もいるので、2025年度現在、同プロジェクトで増えた審判員は約30名で、九州地区全体では約90名の審判員が活躍しています」(藤原さん)。

同プロジェクトにより、社会人になっても続けている審判員の数をお聞きすると、「スタッフ出身で今も審判員も続けているのが1人、審判員だけを続けているのが2人、クラブチームの選手を続けながら審判員も続けているのが5人と、アプローチ後に社会人で続けているのは8人です」(藤原さん)とのことで、「社会人」審判員は少しずつ増えてきています。

なお、同プロジェクトにより新規審判員を増やす取り組みは2024年度で一旦終了し、2025年度からは、審判員の質を上げることに力を注ぐことにシフトしていきます。

ラクロスに恩返しをしたかった

九州地区のリーグ戦で審判をする藤原さん

藤原さんは、コロナ禍後の九州地区の審判員を増やそう・社会人になっても続ける人を増やそうと「新規審判員獲得プロジェクト」を立ち上げ、人数の確保・質の向上に努めました。個人ではなく九州地区という広い範囲で審判員のことを考える動機はどこから生まれてきたのでしょうか。

「二つ理由があります。一つは、大学4年生のとき(2018年度)に学連委員長を経験させてもらえたことで、ラクロスに恩返ししたいと思っていたから。二つ目がシンプルにラクロスが楽しいと思っていたからです」(藤原さん)。

学連委員長をすることで、藤原さんは九州地区全体のこととラクロス全体のことを考えるという経験をしました。たくさんの経験ができるラクロスという土俵を衰退させたくなかった、というのが藤原さんの動機でした。

同プロジェクトを立ち上げた2022年度は、大学院を卒業したあと宮崎で仕事をしていました。自腹で、片道3時間以上かけて車で同プロジェクトのために福岡まで月に1〜2回通いました。プレーヤーもコーチももうしていなかった自分がラクロスのために何ができるか考えたときに、自分の持ち札が「審判員」だった。だから、九州地区の審判員を増やすためのプロジェクトを立ち上げることで、恩返ししたかったのです。

審判員のコミュニティは楽しい

藤原さんが審判員の資格を取得した2016年から数えると、今年2025年度はちょうど10年目です。10年続けてきたことで見えた審判員の楽しみ方を学生審判員に伝えてほしいとお願いしました。

「審判員コミュニティは楽しいということです。審判員コミュニティをより楽しむためには、自分の地区だけじゃなく、いろんな地区からの審判員が来る大会へ参加してみてほしいです。九州地区の学生審判員には、中四国地区で開催されるあかつきカップ(ラクロス全日本学生新人選手権大会)へ参加することをこれまで勧めてきました。

あかつきカップへ参加した審判員は、審判員を続けるモチベーションが上がっています。審判員の知り合いができることで、『来年のあかつきカップでも会いましょう』とか、『実家の関西に帰ったときに一緒に吹きましょう』とか、『あいつより上手くなりたい』と良きライバルになるなどモチベーションが上がるのです。

とはいえ、九州地区はいまでも学生プレーヤーが審判員をしている状況は変わらないので、まずはプレーヤーを頑張ってもらいたいという思いもあります。卒業後もクラブチームでプレーヤーを続けてもらいたいですが、もし、仕事でプレーヤーが続けられないとか、プレーヤーをやり切ったというのならば、ラクロスから完全に離れるのではなくて、それまで培ったラクロスの仲間との繋がりを大事にするためにも、審判員を続ける道があるというのを知ってほしいとは思っています」(藤原さん)。

関東地区への異動で新しくできた目標

藤原さんが九州地区審判部次長に就任した2025年度、仕事で関東地区への異動がありました。仕事で異動し別の地区にいながら元の地区の仕事をする――というのは“社会人あるある”。しかし審判員コミュニティの広がりを楽しむ藤原さんは、関東地区で新しい目標を見つけて楽しんでいます。

「東日本クラブチームラクロスリーグ戦男子チャンピオンリーグ(以下、CL)1部の試合を吹けるようになる、という目標を立てました」(藤原さん)。CL1部というと全日本選手権で優勝したり、日本代表選手が多く所属したりする“トップチーム”が試合をするリーグ戦です。そこで笛を吹けるというのは審判員としてはとてもエキサイティングなことです。

「CL1部のなかでもKAWASAKI FALCONSの試合をフィールド審判として吹きたかったんですね。KAWASAKI FALCONS#9守田樹選手のスコアをコールするというのを目標にしていました。先日(2025年8月24日)開催された ADVANCE-HANGLOOSE vs KAWASAKI FALCONSの試合で、それらがすべて叶いました」(藤原さん)。

藤原さんは九州大学大学院在学中に九州大学の1年生コーチをしていたのですが、そのときの1年生に現在KAWASAKI FALCONS#9守田樹選手がいました。守田選手は、2024年BOX男子日本代表選手でもあります。「教え子とフィールドで会えるというのは、プレーヤーを続けていればありえることですが、プレーヤーじゃなくても実現できるんだと思いました。審判員を続けてきてよかったなと思った一つとなりました」(藤原さん)。

守田樹選手のスコアをコールした試合の後で記念撮影

プロフィール

 

藤原達矢さんのプロフィール写真
  • 名前:藤原達矢さん

≪選手歴≫

  • 2015年–2018年 九州大学 #17 MF

≪審判員歴≫

  • 2016年(大学2年生) 3級
  • 2019年(大学院1年生) 2級
  • 2025年 九州地区審判部次長(男子)

写真提供:藤原達矢さん
Text by 日本ラクロス協会広報部 岡村由紀子

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