Columnコラム

2026年2月1日、MUFGスタジアムで行われた日清食品 presents 第35回ラクロス全日本選手権大会A1男子決勝。社会人と学生がぶつかる頂上決戦は、KAWASAKI FALCONS(以下、FALCONS)が早稲田大学(以下、早稲田)を10-4で破って優勝。早稲田は学生日本一としてこの舞台に立ち、5大会ぶり12回目の出場で全日本制覇を目指したが、その頂にはあと一歩届かなかった。
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ただ、早稲田にとってこの一戦は単なる「敗戦」で終わる試合ではなかった。2025年の早稲田は、関東学生リーグ戦Aブロックを全勝で突破。FINAL4準決勝では日本体育大学に10-7で勝利し、その後の決勝では明治学院大学に敗れたものの、全日本大学選手権では福岡大学、岡山大学、名古屋大学を下して5大会ぶりの学生日本一に返り咲いた。そんな一年間の集大成として臨んだのが、このFALCONS戦だった。
結果こそ思い描いた通りにはならなかったが、1Qでは2-3、前半終了時点でも2-4と、学生王者は社会人王者相手に真正面から食らいついた。試合直後のインタビューから浮かび上がったのは、1年間早稲田を率いてきた主将・#9野澤想大選手と、精緻なOFユニットを作り上げたOFリーダー・#7小川隼人選手の言葉の端々ににじむ、2025年の早稲田大学男子ラクロス部の歩みだった。
#9野澤主将が語る、早稲田大学がぶつけた“今年の強み”
自陣でボールを奪取し、持ち上がる#9野澤主将
試合を振り返り、野澤主将はFALCONSの強さを語った。
「やっぱりFALCONSさんの方が色々な部分で一枚上手だったなと感じています。派手なプレーだったりとか、ものすごい個での突破があったわけではないと思うんですけど、無謀なプレーは絶対してこずに、でも隙があったら確実に決めてくる。そして気づいたら点が広がっているっていう状況でした。ここは流石というか、やっぱり力の差があったかなと思います。」
一方で、この一年間、チームとして磨いてきた“自分たちのラクロス”は、確かにこの舞台でぶつけることができたという実感があった。
「ただ、今年一年間でフルフィールドオフェンスっていうのは強みにしてきていて、点はあまり入らなかったですけど、しっかり走って自分たちの持ち味を出そうというところはある程度できたのかなと思います。」
このフルフィールドオフェンスは、早稲田にとって今年の象徴だった。だからこそ、社会人相手にそれを押し切れなかった悔しさは大きい。
2025年の早稲田ラクロスを支えたもの
1on1でFALCONSの選手と対決する#9野澤主将
早稲田大学ラクロス部を知るにあたって欠かせない言葉がある。部訓である「巧より強たれ」だ。一見すると、激しさや気迫を前面に押し出すフレーズにも映る。だが、4年間を通してこの部訓を体現してきた野澤主将の解釈は少し違う。
「なんとなく聞こえ的には激しいプレーをしろみたいに捉えられがちなんですけど、僕は少し違うと思っています。上手い、目を見張るようなプレーをするのではなくて、誰にでもできることを誰よりも徹底するーーそれが僕なりの、僕の4年間を通じた『巧より強たれ』の解釈です。」
野澤主将の言葉は、2025年の早稲田そのものだ。特別なひらめきではなく、全員が再現性の高いプレーをやり切ること。そこに主将としての価値観がにじんでいた。普段の練習では、それが如実に表れている。
「練習では”試合でどういうラクロスをしたいか”っていうことを考えてから逆算してメニューを作っています。」
そしてその根底にあったのは、誰もが理解しているが簡単にはできない。そんな考え方だった。
「試合と同じように練習するっていうのはすごく大事ですね。当然みんなそんなことはわかってると思うんですけど、それをどれだけ本当の意味でできるか、詰められるかっていうのが試合での自分たちのパフォーマンスに直結すると考えています。僕も一年間ずっとチーム内で言ってきましたし、自分自身も常にそこは詰めてきました。」
派手な変化や特別な秘策ではなく、“当たり前を詰め切ること”。それが、2025年の早稲田を支えた土台だ。
主将として考える、勝ち方への責任
試合中、野澤主将にはプレー以外でも印象的な姿があった。試合が熱を帯び、誰かがエキサイトするような場面でも相手への敬意を忘れず、感情を整理しながら立ち回っていたことだ。
「僕も結構熱くなっちゃうタイプで、練習中も厳しく言ってしまうこともあるんですけどね。」
そのうえで、試合に対しては別の意識を持っていたという。
「やっぱり相手あっての試合ですし、勝った時に『早稲田が勝って良かったな』と思ってもらえる方が良い。『早稲田が勝ったけど、なんか嫌だよね』っていう状態はすごく気持ち悪いので、応援してもらえる個人や組織でいようとは意識していました。」
勝つことだけではなく、どう勝つか。その姿勢もまた、2025年の早稲田を象徴する一面だった。
同期への感謝、後輩への想い
試合後、応援団に向けて挨拶する#9野澤主将
この試合で引退を迎える4年生として、野澤主将は同期への感謝を口にした。
「1年生の時から学年キャプテンを任せてもらっていました。僕自身は仲間に厳しく言うタイプではあるんですけど、同期は本当に優しくて、努力家の人間が多かったです。それぞれが自分の役割をしっかり全うしてくれて、そんな同期がいたからしんどい時も頑張れました。」
チームを引っ張る立場にいたからこそ、支えてくれた存在の大きさが分かる。続けて、次世代の早稲田を担う後輩たちへ向けて、こう語った。
「来年の目標は全日本選手権優勝です。社会人を倒しての優勝を掲げているので、今年果たせなかったことを達成してくれると期待しています。僕らも最後は目標であった学生日本一は達成して終われたので、彼らも笑って終われることを本当に心から願っていますし、信じています。」
OFリーダー・#7小川選手が語った悔しさと手応え
1on1で果敢に切り込む#7小川選手
試合後、#7小川選手は率直な思いを口にした。
「本当に悔しいなっていう思いが強くて、ミーティングでも今年の強みのフルフィールドオフェンスで社会人を圧倒しようと話していました。全日本大学選手権を優勝してからもそこを意識してきたんですけど、そこがあまりハマらなかったというか、FALCONSさんのアンセット状態での守り方が上手くて、なかなか攻めきれなかったのが敗因の一つかなと思っています。」
野澤主将と同じく、フルフィールドオフェンスの強みを出し切れなかったことに悔しさを感じていた一方で、通用した部分もあると感じていた。
「その一方で、ハーフオフェンス、セットオフェンスは自分たちがこれまでやってきたのが通用して何点か取ることもできたので、そこに関しては本当にやりきれたというか、良かったかなと思います。」
本試合でも早稲田の緻密に計算されたOFが炸裂していた。結果として頂点には届かなかったが、この試合には2025年の早稲田が築いてきたOFの現在地がはっきりと刻まれていた。
OFリーダーとして作り上げた、精巧なOFユニット
得点後に駆け寄るOF陣(左から#7小川選手、#11吉田 宗一郎選手、#22花井 コルトンヘイズ選手)
小川選手の言葉から見えてきたのは、2025年の早稲田OFがどのように形成されていったか、その設計図だ。転機になったのは春の早慶戦の敗戦だったという。
「5月の早慶戦に負けてから、この先、学生日本一になるために何が必要かっていうのを話し合った時期があって、各々が絶対決まる得点パターンを身につけようっていうことを決めました。」
これは、単に“得点力を上げる”という曖昧な話ではない。各自が自分の武器を明確にし、それをチームの共通言語に変えていく作業だった。
「要するに強みを活かそうっていう感じですね。例えば、#22コルトンだったらクリースプレーを得意としているので、クリースでコルトンが得点する場面を作ろうと決めて、それを全員で再現しました。つまり、各々がやりたいことや得意なことを理解してそれをチームとして支えることで、いくら調子の悪い日があっても自分の絶対的に自信があるプレーをすることができれば勝てるよねっていう考え方ですね。」
早稲田のOFは“個を自由にさせる”のではなく、“個の武器をチーム全員で再現できるようにする”ことで強くなっていった。その積み重ねが、今年の精巧なOFユニットを生んだ。
今年度非常に印象的だった得点パターンの多さについても、小川選手はそのこだわりを明かしている。
「そうですね、そこはもうシーズン当初からめちゃくちゃ考えていました。シーズン後半になると対策をされることもあったんですけど、その対策に対して別の対策も組んでみたいな感じで、どんどん質を高めていきました。」
「セットプレーもいくつか用意していました。ここに関しては本当に学生トップ、なんなら社会人の中でもトップクラスだと言えるぐらいには練度を高めていけたと感じています。」
この言葉からも、今年の早稲田が感覚的なプレーや勢いに頼っていたわけではなく、再現性の高い設計のもとで戦っていたことが分かる。血と汗が滲むような試行回数が早稲田の得点力を支えていた。
苦しんだ3年間を越えた4年目
小川選手個人にとっても2025年は特別なシーズンだった。「強豪・早稲田のOFリーダー」ーーラクロスを知っている人であれば、誰もが輝かしい実績を残してきたのだと思うだろう。だが、3年生までは結果が出ず、悔しさを抱えてきたという。
「なかなか3年生まではあまり結果が出れなくて、要所要所でのゴールの決め切りが課題でした。3年時は1点しか取れなかったので、本当に悔しい思いをたくさんしてきました。」
最終学年ではその苦しい時期を経たうえで、自分自身に高い目標を課した。
「4年になったタイミングでオフェンスリーダーという役職も任されて、そこで目標を立てました。チームとしては学生日本一、個人としては得点王とMVPとベスト10に選ばれることを立てて、最後の年でそれらを全て達成することができたので、本当に4年目でなんとかまくり上げられたのかなと思っています。」
個人としての飛躍が、そのままチームの推進力になった1年だった。もっとも、小川選手の仕事は自分が点を取ることだけではなかった。シーズン序盤は、OFリーダーとしてチーム全体の力を底上げすることに注力したという。
「今年は去年のリーグ戦を経験しているメンバーが#22コルトンと自分しかいなくて、正直、シーズン当初は客観的に見て下馬評的には結構厳しいだろうなっていうのがありました。なので、春にあったプレシーズンの六大学戦では全員が試合に出るということを意識していました。その中で優勝できて、大きく自信がついたかなと思っています。」
さらに、その後のリーグ戦へ向けてはOFユニットの最適化にも取り組んだ。
「先ほどにもあった、各々の強みをチームとして活かすということを意識したかったので、MFをセット制にして『このMF3人の組み合わせだったらこのパターンがハマるよね』っていうのを決めて、そこに焦点を当てて練習していました。ここの工夫は結構してきたので、そういうところがなんとか実ったのかなと思っています。」
個々の能力を俯瞰し、最適な組み合わせを見出したうえで、最も力を発揮できる型に落とし込んでいく。小川選手が作ったのは単なるOFではなく、勝つための構造そのものだった。
次世代の早稲田へ渡された基準
早稲田ベンチメンバーの集合写真
最後に、小川選手は次世代を担う後輩たちへ明確な“基準”を残した。
「今年は学生日本一になれたので、自分が今年やってきた施策や取り組み方が日本一の一つの基準になるかなと思っています。」
そして、その基準を超えてほしいと願う。
「来年は全日本選手権の優勝を目標としているので、それを超えて本当に圧倒的な得点力を誇るオフェンスになってほしいなと期待しています。」
学生日本一という称号にたどり着いても、そこで視線は止まらない。早稲田が見据えていたのは、そのさらに先にある全日本選手権優勝だった。小川選手の言葉は、2025年の歩みを次の早稲田へとつなぐものだった。
総括
この試合で早稲田大学は社会人王者の壁に跳ね返されたものの、学生日本一という輝かしい実績を残した。だが、インタビューで語られた言葉をたどると、2025年のチームが残した価値は”学生日本一”という栄冠以上に大きい。
野澤主将が示したのは「誰にでもできることを、全員が徹底する」という精神的な強さだった。小川選手が形にしたのは「個人の能力を組み合わせ、再現性を高める」オフェンスだった。
精神的な強さと確かな実力。その両輪が噛み合ったからこそ、早稲田は2025年、学生日本一にたどり着いた。そして全日本選手権大会A1という舞台で戦い、次世代へ”基準”を残した。だからこそ、この敗戦は終わりではない。
2025年の早稲田大学男子ラクロス部が築いたものは、次の“日本一”へとつながっていく。
Photo by 日本ラクロス協会広報部 海藤秀満・小保方智行
Text by 日本ラクロス協会広報部 小田悠人








