Columnコラム

【Inside JLA】日本のラクロスはどこへ向かっていくのか。〜日本ラクロス協会最高戦略責任者(CSO)、安西渉インタビュー〜(前編)

サッカーワールドカップ、ワールドベースボールクラシック、テレビを見ているとそんなスポーツの国際大会を目にする機会は少なくないだろう。それを見た時に私はふと考えることがある。

「ラクロスはこんな風になれるのだろうか?」、「ラクロスはこれからどうなっていくのだろうか?」

ラクロスをやっていれば誰でもそんなことを考えることがあるかもしれない。

今回はそんな疑問に向き合い、考え続けている一人の男性の話を聞いてきた。

————–まずは、ご自身の肩書きについて簡単に教えてください。

今は主に2つの顔でラクロス協会に関わっていて、1つは「理事」という顔、もう1つは「CSO(最高戦略責任者)」という顔です。理事の方は、会社でいうところの取締役みたいな位置付けで、公益社団法人日本ラクロス協会の経営方針に関わるような重大な意思決定をするのが主な仕事です。例えば、日本代表のヘッドコーチ人事とか、予算案の承認とかみたいなのが挙げられます。基本的に理事は全員無報酬(ボランティア)で、他に佐野君が知っている人で言うと、佐野君がU21でお世話になった永田さん(永田久美子さん:日本ラクロス協会理事)もボランティアです。

—————そもそもどういう経緯で理事になられたのですか?

理事になったのは2018年のことなのですが、ラクロス協会が任意団体から一般社団法人に変わるタイミングで理事の公募をしていたのを見つけて、単純に「面白そうだな。」と思って、応募しました。元々会社経営をしていたので、経験やスキルを活かせそうだった、ということもあります。

現在は、理事の仕事とは別にラクロス協会の職員として、最高戦略責任者(以下、CSO)という肩書きで勤めています。ラクロス協会には職員と呼ばれている人が13人いて、そのうちフルタイムの職員が6人、パートタイムの職員が7人という構成になっています。理事になったのは2018年ですが、CSOとしては2020年の3月から活動をしています。今、基本日中はCSOとして仕事をしていることになります。

—————普段の安西さんの仕事ぶりを見ていると、「なんでも屋」のような印象を持っているのですが、実際のところ、CSOとしてはどんな仕事をされているのですか?

「何でも屋」というイメージは間違っていないかもしれません(笑)。

私のミッションは、「日本ラクロスの価値を高めること」です。でもひとことで価値を高めるといってもそれは簡単ではなくて、まず「日本ラクロスの価値」について定義するところから始めなければならないし、その「価値がある状態」ってどういう状態なのかということについても考えていかなければならないと思っています。スポーツ協会の価値の尺度は様々あると思っていて、例えば競技会員数とか、日本代表の強さとか、スポンサーの数、ファンの数などなど。私が2020年にCSOに就任してからは、まずその日本ラクロスの価値の尺度をどう考えるか、というところからスタートしました。もちろん最初からいきなり「日本ラクロスの価値はこれです。」と定義することは難しくて、色々な仮説をもとに考えていく必要がありましたね。

そして去年くらいから現場での活動が再開してきて、仮説だったものをより具体的にして考えていくフェーズに入ってきたのかなと思っています。

—————世の中にスポーツが多種多様ある中で、ラクロスはアメフトやバスケのようになっていけるのでしょうか?

まず、スポーツの発展というところについて話していきたいんですが、一般的にスポーツの発展を考えたとき、たとえばサッカーやバスケのようないわゆる「メジャースポーツ」のように発展していくことが正しいかのような先入観があると思っています。けれど、それが日本のラクロスにおいて正しいのか、幸せなのかと言うことについては疑っていかなければならないと思っていて、そして結論としては違う道を辿った方がいいのではないかと私は思っています。少なくとも現時点においては。

前提として、ラクロスというスポーツは他のスポーツに比べて圧倒的に複雑で、変数が多いスポーツです。ラクロスの特性として、走るよりもボールが動く方が速いがゆえに、動きや展開を予測することが重要になったり、そこからくる戦略性の深さみたいなのが挙げられると思っています。加えて、ポジションによって役割が異なり、、ルール自体もとても複雑ですよね。正直、初めて会場でラクロスを見た人は、よくわからないと思います。特に男子はヘルメットで顔が見えないですし。

一方で、日本でメジャースポーツとして浸透している競技の多くは、誤解を恐れずに言うと、わかりやすく記号化されている場合が多いと感じています。特に日本においては、純粋な競技としてではなく、そこにあるストーリーを楽しんでいる人が多いと感じています。高校野球の「熱闘甲子園」みたいなのはその最たる例ですね。

「複雑で理解するのが難しい」というハードルと、「分かりやすいストーリーに落とし込む」というハードルの2つがあると思うんです。

加えて、日本のラクロスが他のスポーツに比べて後発的であることも考えると、ラクロスがいわゆる日本で流行っているメジャースポーツを目指すのは、現時点では得策ではないと思っています。

—————なるほど。では日本ラクロスは今後どういった方向に舵を切っていくことになるのでしょうか?

冒頭話させていただいた、「ラクロスの価値」が何なのかというところにもつながると思うのですが、ラクロスをやってきた人を見てみると「大事なことはラクロスで学んだ」とか、「自分の価値観はラクロスによって創られた」と考えている人がかなり多いです。それは何故なのかとさらに考えていくと、日本のラクロスの大きな特徴が見えてきました。それは「自己意思決定する回数の多さ」です。

それは慶應義塾大学の1年生が最初にラクロスを日本に持ち込んだときからずっと続いていて、ラクロスは全てのことを自分たちの力で選んでいけるような「インデペンデント」の状態を維持していくべきだという文化が根付いているんですね。

先日World LacrosseのHP公開された日本におけるラクロスの発展についての記事があるんですが、そこにはラクロス創設期のかなり興味深いエピソードが紹介されています。

https://worldlacrosse.sport/article/inside-the-growth-of-japan-lacrosse/

 

実際、ラクロスの現場では学生たち自身が運営のハンドルを握って、試行錯誤していることが多いと思います。大人の力を借りつつも、現場にいる当事者が悩み、そして自己意思決定をしていくそのプロセスそのものがラクロスの「価値」だと私は思っています。よくラクロスは就活に強いと人材市場で言われることはありますが、それはその自己意思決定の数が多いことが要因だと思っています。

つまり私たちにとってのラクロスは、単なる一競技ではなくて、人生そのものなんじゃないのかな、と。それが我々日本ラクロス協会が掲げている「Lacrosse as a life」であり、今の日本ラクロスにおける「価値」だと私は考えています。

——————–後半へ続く

 

Text by Lacrosse Magazine Japan 編集長 佐野清

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